春になったら君に会いたい



「あれ?」

急に、何かを忘れているような気がして後ろを向くと、正晴がいなかった。


「俺と一緒にいた男の子ってどこ行きました?」

タオルをしまっている女の子にそう聞くと、彼女は少しキョトンとした感じになってから答えた。

「え、あなたのことを中に押してからすぐにいなくなっちゃいましたよ」



……何がしたいんだ正晴は。

珍しく正晴の意図が読み取れない。いつものあいつなら面白がって後ろから見てそうなものだが、何かあるのだろうか。


何にしたってここは俺ひとりで話をするしかない。忘れ物を届けるためだけに来たわけではないのだから。



「今って時間ありますか?」

「はい、暇ですけど……」

「そ、それなら、俺と話してもらってもいいですか?」

結構直球に言ってしまった。俺に回りくどいことは向いていないようだ。


彼女は初め驚いていたが、俺の言葉がおかしかったみたいで笑いを漏らした。

「ふふっ、もう話してるじゃないですか」

口元を軽く手で隠して肩を小さく震わせている。


何故だかその姿は今にも消えてしまいそうに見えた。

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