春になったら君に会いたい



「最近、退院中にやりたいこと考えてるんだ! 家族と美味しいもの食べたり、温泉行ったりしたいなって」

のぞみは一時退院を心待ちにしていたようで、それはそれは嬉しそうに言った。


「へー、家族と仲いいんだな」

「うん!」

「ともだ……いや、なんでもねぇ」

友達とは遊ばないのか、と聞こうと思ったがやめた。

こうしょっちゅう見舞いに来ているのに、一度も彼女の友達と会ったことがないからだ。

ずっと入院しているようだし、友達はいないのかもしれない。俺自身、正晴以外には友達と呼べるような人はいないし。



「で、ここからが本題なんだけど!」

のぞみが何かを企んでいるような顔をした。今までの話は、前置きだったらしい。


「冬くんと遊びたいんだけど、どう?」

「え?」

突然の誘いに、頭が真っ白になる。

俺とのぞみが遊びに行く。これはデートということになるのではないだろうか。


「駄目、かな?」

上目遣いで、首をかしげられると弱い。

「行こう」

おかげで、反射的に返事をしてしまった。

まあ、予定があるわけではないので、問題はないのだが。


しかし、女の子と二人で遊ぶなんてもちろん初めてなので、変なことをやらかさないか心配だ。誘われただけで、こんなにドキドキしているというのに。



「わーい! じゃあ、どこ行く?」

俺の気持ちなどつゆ知らず、のぞみは喜んでいた。いつもより目に輝きがある。


「俺はあんまりそういうのわからん」

「うー、ぶっちゃけ私もそうなんだよね。どこがいいんだろ」

俺たちはそう頭を悩ませた。友達が少ないとこんなところでも不便なようだ。





最終的に、俺が帰る時間までいい案は出ず、「決まらないから、冬くんエスコートして!」という一言で任せられてしまった。


大変だな、と思いつつも、どこか楽しんでいる自分がいることに俺は気づいた。


いい方向に進んでいる。そんな気がする。

彼女といれば、生きる意味に気づけるのではないかと思った。

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