【短編】夕暮れモーメント
夕暮れモーメント






「新しいことは若ければ若いほど馴染むのが早い、」





こんなことを先輩の高島さんはよく言っている。

反対に、飽きるのもすごく早い、とも。






でも、私の場合はどうなんだろう。



専門学校を卒業してそのまま就職したこの老人ホーム。


少しでも条件がいいところを、と行き先を決めあぐねていた周りの友達を尻目に、私だけは一番最初に内定が出たところにさっさと就職を決めてしまっていた。



新しいことに慣れるのは苦手な方ではないけれど、もともと出来上がった人間関係の輪の中に入っていくのは、何よりも不得意だ。




今の職場でもそう。

職場の性質上、ここで働く人たちは、なかなかの世話焼きが多いからまだいいものの、みんなの輪の中にはまだ今一つ、入っていけない。



どんなに私が若いからって、新しいものに馴染んでいくことはそうそう簡単なことじゃない。

私はそう思ってる。




だけど、今回ばっかりは絶対に途中で逃げる訳にはいかないのだ。


今回ばかりは。


私はそう心に決めていた。



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