千の春
「27クラブってあるよね。神さまは、気に入った『才能』を27歳になった時に連れて行くんだ」
俺もその一人、犠牲者ってわけ、と日向は言う。
「妙音さまは、岬を気に入ったんだ。『才能』じゃなくて、『魂』を」
「私の才能には興味ないってわけ?」
ちょっとムッとして岬が言い返すと、「まぁそういうこと」と日向は隠しもせず答えた。
「神さまって大体がわがままで勝手でさ、気に入った才能は問答無用で連れてくくせにさ、岬のことは連れて行けなかった」
「なんで。私のこと好きなら、神様パワーでもなんでも使って連れて行けばよかったじゃん」
「好きだから、連れて行けないんだよ」
当たり前、とからかうように言われた。
「なんで」と子供のように岬は繰り返した。
「連れてったら、岬、妙音さまのこと嫌いになるじゃん」
「うん」
「だからだよ。好きな子には、嫌われたくないんだよ」
普通で、当たり前のことだろ。
日向の言葉に、岬は唇を噛む。
神さまも、普通の恋をするのか。
「嫌われたくなかったから、連れて行けなかったんだ」
言い聞かせるように日向はつぶやく。