いつか、君の涙は光となる
ずっと黙っていた副部長がそばにあったバケツを蹴り飛ばすと、中に残っていた水が床に散らばった。沙子と一緒に掃除をした倉庫に、一瞬にして灰色の水が広がっていく。その水はもろに私の足元にかかり、上履きはびしょ濡れになった。どうして先輩がこんなにも好戦的なのか、理由は分かっていた。先輩たちも、上の代の先輩にこんな風に虐められていたからだ。先輩たちの頭上に浮かぶ数字は、きっと部活が原因で流した涙も多くカウントされているだろう。
「あとさ、たまたまお前呼び出そうと教室覗いた時に聞こえたけど、お前サッカー部の奴にチクってたわけ?」
「いや、それは……」
違います、と続けようとした瞬間、ぐいっと髪を掴まれた。
「すぐ男に媚びてんじゃねえよ、バーカ」
そう言って、私のことを鬼のような顔で睨みつけてくる。そういえば、先輩の彼氏はサッカー部の部長だった。彼の耳に入ることを恐れたのだろうか。私が何も言わないでいると、益々髪の毛を掴む手に力が入っていく。痛い。頭皮が熱い。顔の皮膚まで釣り上がるほどの力だ。ここで謝れば済む話なんだろうけど、やってないことをやったことにして謝ってまで、この人たちに許してもらおうとする気力が湧かない。
「お前辞めちまえよ、なんでいんだよ」
辞めてやりたい。こんなとこ。沙子がいなくちゃ続ける意味もない。だけど、辞めるわけにはいかないんだ。
「沙子をこれ以上、悲しませたくないから、辞められません」
「はあ? お前ドラマとか見過ぎなんじゃねえの? 痛すぎ消えろ」
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