いつか、君の涙は光となる
「おい吉木、お前も水泳部のあの二年酷いと思わねー?」
たまたま近くを通りかかった吉木を見て、宗方君は同意を求めて引き止めた。吉木をこんなに近くに見るのはあの倉庫の日以来で、私は反射的に身を強張らせた。
「別に。一年ならしごかれて普通じゃない」
「なんだよお前、反応冷てぇなあ」
「一人だから虐められてるように見えるだけだろ」
そう言って自分の席に向かう彼の瞳は、やはり一切私には向かない。ここまで徹底して冷たい態度を取られると、そろそろこっちもショックを受けるだけでなく苛立ちすら抱いてしまう。今すぐ首にあるヘッドホンを投げ捨てて、あの整った顔を両手で挟んで無理やりこっちを向かせてやりたい。一体私の何が気にくわないのか、聞き出してやりたい。そう思えば思うほど、頭の中が彼の存在で埋め尽くされていくことに、更に苛立つのであった。



「じゃ、一年は外周二十周で。終わったら倉庫に来な」
沙子がいなくなってから、定番となった練習メニューにはやっと最近慣れてきた。でも、先輩たちが走っているところは一度も見たことがない。一人で走って、一人で準備体操をして、一人でプールサイドを掃除する。家に着くとすぐに眠ってしまうほど体力は底を尽きていて、眠っても眠っても体が回復していない気がした。
そんな練習を続けて一カ月が過ぎた今日、私は先輩たち五人に呼び出されたので、走り終えてから倉庫に来た。

「あんたさ、今日私たち見えてたのに挨拶しなかったでしょ」
一体いつの話をしているのかさっぱり分からない。朝は疲労でふらふらだったので、もしかしたらそれで先輩たちを見逃してしまったのかもしれない。たった一つ歳が違うだけで、どうしてこうも偉そうに言われなきゃならないのか。そんなことを言ったらこの一カ月耐えた意味がなくなるので、私はぐっと堪えて頭を下げた。
「すみません、気づきませんでした」
「お前さ、ムカつくんだよ。沙子がいなくなったら何もできなくて、へらへらばっかしててさ」
そう言って、先輩が私に向かってタオルを投げつけてきた。痛くもなんともなかったが、沙子がいないと何もできない自分、ということを言い当てられたことが辛い。
「なんか言えよ、腹立つな」
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