先輩から逃げる方法を探しています。
中学生の頃の先輩は今とは真逆で、真面目に学校に通っていたし、授業も受けて、その上塾にまで行っていたぐらい勉強をしていた。
それは『好きだから』とか『やりたいから』ではなく『しなくてはならないこと』だった。
それが先輩の家庭内では当たり前の環境だからだ。
両親は教師で厳しく、勉強に熱を持っていた。
そして、先輩にはお兄さんがいて、お兄さんは成績も優秀で人当たりも良く、両親の自慢できる存在。
もちろん、先輩にとっても自慢の兄弟。
「高校は俺も兄さんと同じ学校に行く予定だった。いや…行かなくちゃいけなかったんだよ」
だけど先輩は第一志望であるお兄さんと同じ学校へはいけなかった。
受験に落ちたからだ。
そんな先輩に両親は言った。
『兄が出来るんだから弟も出来るに決まっているのに。失望した』
『うちの子は優秀な子だけ』
冷たい視線と言葉。
この1度きりだけじゃなく毎日それは続いた。
それから先輩は喧嘩に明け暮れた。
喧嘩をしていると何も考えずに済んで、そんなことも忘れられると。
その行為のせいでますます両親の態度は先輩にきつくなり、今となっては会話すらない状態らしい。
学校でも先輩の噂は広がり、誰も近寄らなくなった。
家も学校もどこにいても居場所がなく、苦痛で、その気持ちを忘れられる方法が喧嘩で。
でも、喧嘩のせいで居場所がなくなって…。
完全に悪循環だ。
「自業自得で救いようのない奴だよねぇ、俺」
「他に方法はなかったんですか?」
笑ってはいるが困ったように此方を向く。
「あったよ。こうして翼ちゃんや耀ちんと…友達と話して、遊んで。そうしてると楽しくて忘れられる。だけど…」
言葉を詰まらせ、再び私から海へと視線を戻す。
いつも大体笑って、私をからかって、楽しそうにしている先輩しか見たことがなかった。
先輩がこんな悲しそうな顔をするなんて…。
私も先輩と同じで第一志望だった高校に落ちた。
その時、大泣きした。それは誰から責められたわけではなく、悔しかったから。
もし私も先輩と同じように言われたら…きっと大泣きどころじゃない。