先輩から逃げる方法を探しています。



先輩が再び隣に座ったかと思えば、私の視界は奪われた。

真っ暗で何も見えない。


「先輩急になんですかっ」

「翼ちゃんのせいで困ってる」

「困ってる?」


両手で私の視界を奪った原因である先輩の手を退かす。

顔を見ると、困っていると言ったのに先輩は笑っていた。


「笑ってるじゃないですか」

「笑ってるんじゃなくてにやけてるんだよ」

「にやけ…?困ってるんじゃ…」

「困ってるよ。嬉しすぎて」


先輩は両手で自分の頬を軽く叩き、一呼吸した。


「それで、俺が喧嘩をする理由を聞きたいんだっけ?」

「はい。教えてくれるんですか?」

「そりゃあんなこと言われたらねぇ」


そう言うといつもはしないような少し真面目な表情を見せる。

その表情を見て、私は自然と身構えた。


「寂しいからだよ」

「…え」

「夏休み入ってさ、翼ちゃんにも耀ちんにも会えなくて寂しかったから」


納得の出来ない理由を言う先輩に唖然とする。

喧嘩をする理由が寂しかったから?

私と耀先輩に会えなくて寂しかったって……本当にそんなことが理由?

そもそも私や耀先輩と知り合う前から喧嘩はしてるみたいだし…これもしかしてからかわれてるんじゃ…。

でもいつもとは違う口調と表情。

嘘なのか本当なのかがわからない。


「先輩の本音がわかりません」

「俺はいつも本当に思ったことを言ってるよ~?」

「では寂しいから喧嘩をするんですか?」

「そうだよ。今回はねぇ」

「今回は、というのは?」

「いつもは寂しいとかっていうより忘れられるから、かな」




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