契約書は婚姻届
なんとなく、気まずい。
付き合っていたのはもう、五年も前なのに。

「あのさ、……なんでもない」

朋香の後ろに控える野々村に気づいたのか、雪也は途切れさせ、苦笑いを浮かべた。
朋香もそれに、同じく苦笑いで返す。

「本日はありがとうございました。
なにかありましたらご連絡ください。
あ、」

営業マンの顔に戻った雪也だったが、慌てて持っていた紙袋を朋香に差し出した。

「ノベルティ渡すの忘れてた。
まあ、こんなの押部の奥様は使わないだろうけど」

皮肉って笑う雪也に、朋香も笑うことしかできない。
渡された紙袋を受け取ると、雪也が再び姿勢を正す。

「納車の日が決まったら、押部社長に連絡する。
元気そうでよかった。
車のことならこれからなんでも相談して」

「ありがとう」

「じゃあ、これで」

帰って行く雪也を笑顔で見送る。

もらった紙袋の中にはノベルティの箱と一緒に、――連絡して欲しい、と名刺が入っていた。
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