契約書は婚姻届
「可愛いお嬢さんですね。
私がもう、十ほど若ければ……」

「それで。
用件はなんですか?」

「おお、怖い」

尚一郎が周囲を凍らせそうなほど冷ややかに言葉を遮ったが、尚恭は堪えてないどころか、おかしそうにくつくつ笑っている。

「用件、ね。
……こんなことが許されるとでも思っているのか?」

尚恭の表情が一変し、ばさりと投げ捨てるかの様にその場に出されたそれは昨日、尚一郎が朋香の目の前でサインした書類だった。

「許されるのもなにも。
私は朋香以外の妻は認めませんし、そのためだったらこんな家など」

「そんなわがままが通じるとでも?
おまえは押部家唯一の、跡取りなんだぞ」
 
うっすらと笑う尚恭は、尚一郎よりもさらに恐怖を感じる。
これが重ねた年の差というものなのだろうか。
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