契約書は婚姻届
迷っているとドアが開いて尚一郎が入ってきた。
顔も上げることができなくて枕にうずめたままじっとしていると、マットがたわんで尚一郎が傍に座った。

「Es tut mir Leid(ごめん)」

そっと髪を撫でられると、ますます涙が出てきそうになる。

顔を見たい。
その胸の飛び込んで泣きたい。

でも、いまは躊躇われる。

「どうして、私と結婚したんですか」

びくり、髪を撫でていた手が震えて止まった。

「朋香はきっと、後悔しているだろうね」

「私は理由を知りたいんです」

枕から顔を上げ起きあがると、レンズ越しに尚一郎の瞳をじっと見つめる。
尚一郎も視線を逸らさずにじっと朋香を見つめていたが、しばらくしてはぁっと小さくため息をついた。

「……僕の、わがままだったんだ」
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