契約書は婚姻届
確かに万理奈は尚一郎に酷く怯えていた。
けれど兄である犬飼は万理奈がいまの尚一郎を望んでいるとは思えないと云っていた。

朋香もそう思うのだ。

尚一郎が達之助を失脚させ、明夫の工場を救ってくれたのは嬉しい。

――が、尚一郎が不幸になるのは間違っている。

きっと、万理奈も同じなのじゃないかと思い、確かめにきたのだ。



「ダメ、尚一郎。
ダメ、こないで」

「万理奈さん?」

朋香ひとりだと、万理奈はあの日のように酷く怯えたりはしなかった。
けれど、尚一郎の名前を出したとたん、動揺し始める。

「ダメ、ダメ、尚一郎。
こないで」
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