契約書は婚姻届
……はぁーっ、朋香の声に答えず、ひたすらがたがたと震えている万理奈にため息が漏れる。
犬飼からきっとまともに話はできないだろうと云われていたが、ここまでだとは思わなかった。

「ダメ、尚一郎、来ちゃダメ」

「え?」

さっきまで「こないで」と云っていたのに「来ちゃダメ」。
来て欲しくないと云うよりも、来ようとする尚一郎を必死に止めている感じがする。

「尚一郎、来ちゃダメ。
来ちゃダメ。
来ちゃダメ」

「万理奈さん。
尚一郎さんは来ませんよ」

「……ほんとに?」

「ええ」

安心させるように笑いかけると、ほっと万理奈が息をついた。

「じゃあ、尚一郎は幸せ?」
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