君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
 私は、物心ついた時には、もうお父さんはいないものとして考えていた。だから、母は家を出てすぐに父と離婚したのではないだろうか。

「旦那様が、奥様と正式に離婚されたのは、奥様を守るためだったのだそうです、私も、当時はまだ子供でしたので、自分の記憶は残っていないのですが」

 正式に離婚する事で、祖母、多喜子から、母と私を守ろうとしていたのかもしれない。

「けれど、若は気づかれました、旦那様の言葉や、周囲の者達の態度、……何より、奥様の事を抜きにしても、大奥様の事を信用に足りぬ人物だと思っていたようです」

「祖母は、どんな人なんですか?」

 ……実の孫から、信用に足りぬ人物と思われるというのは、相当ではなかろうか。私は思った。

「大奥様は……、素直な方です、ある意味」

 征治さん自身も少しうんざりした顔をしていた。

「気位が高い方で、私の事などは使用人の一角としか認識されていないのではないかと思います」

「でも、黄金川財閥の跡取り娘で、現在は当主代行なんですよね?」

「ですが、一族の秘伝や、術は、一度大奥様の代で散逸しかけたのです」

 征治さんは、厳しい顔つきで言った。

 一族の、跡取りだった祖母は、指名ある一族の跡取りの自覚より、その血筋の正しさを誇るだけの、高慢な人物であったようだ。

「それを、旦那様が再収集、編纂をされて、蘇らせました。ですから、旦那様の薫陶を受けている若も、大奥様のふるまいに信用がおけないのではないかと思います」

「祖母には、何がしかの力があるのでしょうか、それこそ、父は、誰から麒麟の力を継承したのでしょうか?」

「大奥様は、守護聖獣を召喚されていません、先代達、正しくは、旦那様達が、津九音市においての初代という事になります」

「黄金川家の根幹に関わる部分に、跡取り娘だったはずの祖母が影響力を持たない、というのは、少し不思議な感じがしますね」

 私が、ぽつりと言うと、征治さんが答えた。

「これは、私も父から聞いた話なのですが、大奥様は、黄金川家の者としての能力については長けていなかったらしいです。……しかし、政治的な手腕、戦後の混乱期に、財閥のリーダーとして頭角を示し、政府とつなぎをつけ財力と増したのは、大奥様のお力による所が大きかったとも」
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