君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
 昔、精神錯乱状態に陥った人が、しきりに『白いワニが』と、つぶやいていた事があったそうだが、白い虎を見たのは私だけでは無いので、精神錯乱した私の見せた幻、という事はないはずだ。

 青竹氏の運転するプリウスの後部座席で、私はぼんやりと流れる車窓の眺めを見ていた。

「あ! そうだ! 征治!」

 唐突に、思い出したように黄金川氏が言った。

「さっき、姉さんをお姫様抱っこしたでしょ! 嫁入り前の女性に触るなんて! なんて事を!」

「す……すみません、若」

 恐縮したように青竹氏が言った。

「姫も、申し訳ありません、今、運転中なので、着いてからまた、きちんと謝罪を」

「あ、いえ、私は大丈夫です……っていうか、『姫』はやめていただけませんか」

「え……しかし、若の姉上様でいらっしゃいますので」

「普通に、白梅でいいです」

 そう、私が言うと、青竹氏が答えた。

「……素子様、と、お呼びしてもよろしいでしょうか?」

 いきなりファーストネーム? と、少し驚いたけれども、姫様よりはましかな、と、思いつつ、

「せめて、素子さん、で、お願いできませんかね?」

 そう言うと、青竹氏は何だかうれしそうに、

「はい!」

 と、言った。バックミラーごしに見える顔が、笑っているように見えて、私は少し照れくさくなった。

「姉さん、僕の事は礼門でいいからね」

「いきなり、呼び捨て……は」

「えーーーー! なんでー! 僕達きょうだいなんだよ」

 黄金川氏は、私よりひとつしたのはずなのだが、口ぶりだけ聞いているともっとずっと年下のように感じられた。

「えー、じゃあ、れ、礼門」

「やった!」

「素子さん、では自分の事は征治とお呼び下さいっ!」

 何故か対抗意識をみなぎらせるように青竹氏が言った。

「えー……っと、では、征治さん……でも、いいですか?」

 そう、私が言うと、征治さんは、なんとも形容しがたい不気味な笑顔を作って、(しかし不思議と機嫌はよさそうだった)

「はいっ!」

 と、元気よく返事をした。

 なんとも、唐突にあらわれて、私を拉致するような形で連れだした二人ではあるけれど、悪い感じの人たちではなさそうだ、と、私はひとまず安心した。
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