君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
 運転も、熟練のタクシー運転手のようであったし、コーヒーを出す手際、手作りというケーキも、『手作りケーキ』の範疇を逸脱するもので、喫茶店を開けそうでもある。

 ……何者なんだ、この人。

 礼門は「つきそい」と、言っていたけれど、征治さんの距離のとり方は、どう見ても、礼門の部下や、配下といった感じに見える。
 執事? 護衛? 礼門のマンションだというこの部屋の、勝手知ったる様子を見ると、一緒に住んでいたりするのだろうか。……もしかして、恋人 ? とか?

 いや、聞くべきはそこでは無い。他、色々と、聞かなくてはいけない事があるんだ。

 私が、沈思していると、先んじて礼門が説明を始めた。

「まず、僕の話をしようか」

 礼門の話はこうだった。

 黄金川家当主、つまり、私と礼門の父である黄金川志門と、母、黄金川麻耶(旧姓:白梅)の長女として、まず私、素子が産まれた。
 翌年、年子として、弟、礼門が産まれたが、『とある理由』で、母は私を連れて家を出たのだという。
 その後、父と母は離婚、母は旧姓に戻り、私を一人で育てたと。

「『とある理由』って何?」

「その説明は、長くなるので、またあとでするね」

 母が家を出た理由は、礼門にとっては地雷らしい。初めて会った時から、終始愛想よく笑ってた礼門の表情が、少し厳しい物になっていた。
 ともかく、天涯孤独になったと思った自分には、弟がいた、それについては、少しうれしい事だと思えた。

「あの……虎は何?」

 そう、突然現れた弟や、亡くなった父について、父と母が離婚した理由についても聞きたかったが、今一番気になっているのは、『あれ』だ、突然現れた白い虎。

「あれは、母さんの守護聖獣、主である母さんが亡くなって、遺骨を狙っているんだろうね」

「……守護、聖獣?」

 せいじゅう? 聖なる獣? 朱雀と青龍とか、ファンタジーとか、ゲームに出てくる? あれ?

 絶句していると、インターフォンの音がした。私と母が住んでいたアパートの音割れしたチャイムと違った、澄んだ音だった。

 征治さんが対応して、

「わかった、ありがとう」

 と、応答を終えて、再びリビングに戻り、言った。

「素子さんの荷物、運び終わったそうです」
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