ヒトリノセカイ

あ…

ステージの左、あたしの位置から真ん前に見える場所に、あの人がいた。

チケットをくれた人。

矢の人。

なのに、今日は、矢が見えない。

ヴォーカルの赤い子が、派手に動き回る。

曲が始まる。

赤い子の歌と声に、魂が鷲掴みにされる。

その世界に飲み込まれてく。

ふと左の人を見た。

ギターのような楽器を、弦を指で叩きつけるようにひいている。

唇の端が、笑ってる。

それから、ちらりと、赤い子を見た。

体を九の字に曲げて、歌っている。

彼の目の色が、深く、笑う。
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