【長編】戦(イクサ)林羅山篇
最後の仕上げ
 千が大坂城を出るのと入れ替わ
るように戦っていた豊臣勢が戻っ
てきた。
 大野治長は真田隊の兵卒を見つ
けると声をかけた。
「信繁殿はどこじゃ」
 兵卒は無言で泣きながら首を横
にふった。治長はその表情だけで
十分察しがついた。
「そうか。ご苦労じゃが、山里曲
輪に幸昌殿がおられる。知らせに
行ってくれ」
 兵卒は礼をして山里曲輪の方に
向かった。それを見送った治長の
目に毛利勝永、勝家親子が戻って
くるのが見えて、うれしさがこみ
上げてきた。
 勝永は疲れた顔はしていたが足
取りは軽く、治長に近づいた。
「勝永殿、信繁殿が……」
「戻る途中で聞きました。泣いて
などおれん。すぐに徳川勢がやっ
て来ますぞ。もはやこれまで、こ
ちらの手はずはどうですか」
「整っております。では始めま
す」
 治長は台所で待ってた大角与左
衛門の所に急いだ。
「与左衛門殿、始めてくだされ」
「あい、分かった」
 与左衛門が下働きに命じて台所
の周りに置いた柴に火を点けさせ
ると勢いよく燃え上がった。
「ではわしらはこれで行きます」
「達者でな」
 与左衛門たちは向かって来てい
た徳川勢のもとに走り、予定通り
火を点けたことを叫んだ。
 大坂城内から煙が上がり、やが
て二の丸、三の丸から炎が見える
と、徳川勢は一気に城内になだれ
込んだ。
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