【長編】戦(イクサ)林羅山篇
仕組まれた問答
 この頃には家名を舟橋と改めて
いた秀賢は和歌にも優れた才能が
あり、邸宅にひょいと現れた木下
長嘯子を快く迎え入れた。
「これはこれは、長嘯子殿とは以
前からゆっくりお話がしたいと
思っておりました」
「それはこちらも同じでございま
す。清原様はお忙しそうなのでな
かなかお声をかけられませんでし
た」
「ああ、ご存じないかもしれませ
んが、つい最近、家名を舟橋にい
たしました。それはいいとして今
日は何か御用でしょうか」
「これは存じ上げず申し訳ありま
せんでした。早速ですが舟橋様は
林羅山なる者をご存知ですか。こ
のたび私の和歌の弟子にいたしま
した」
「羅山殿でしたらよく存じていま
す。そうですか弟子にされました
か」
「はい。なんでも近いうちに家康
公に招かれて問答をするよう
で…」
「ほお、長嘯子殿は弟子思いです
な。さよう、問答には私の他に相
国寺の承兌長老と円光寺の元佶長
老が同席するようです。上様がこ
の二人の長老が考えた問題を皆に
問い、私たちは答えられず、羅山
殿に問うという手はずになってい
ます。私が知っている限りでは前
漢、後漢時代あたりからの問いが
あるようです。ですから漢書は必
ず読まれますように。それともう
一問を上様自らが問われるようで
すが、それが分かりません。羅山
殿が答えられなければ私がなんと
か取りつくろうつもりです」
「それはありがたい。弟子になり
代わりお礼申し上げます。舟橋様
とはいずれゆっくりと和歌を詠み
たいものです」
「それはもう、ぜひそうなるよう
心待ちにしております」
 二人の話し合いはすれ違う一瞬
の出来事のように終わり、長嘯子
はすぐに羅山に知らせた。
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