【長編】戦(イクサ)林羅山篇
道春対面
 家康は秀忠に戦の後始末を任
せ、京、二条城に戻った。
 六月末にようやく道春が刷り
上った大蔵一覧を十部持って
やって来た。
「おお、道春、待ちかねたぞ」
「はっ、お待たせして申し訳あり
ません。なんとか百二十五部刷り
上り、これに十部お持ちいたしま
した」
「どれ、はよう見せてくれ」
「はっ」
 大蔵一覧は十一冊あり、十部と
いってもかなりの量だった。
「おお、これは見事じゃ。朝鮮の
活字と遜色ない。いや優っておる
かもしれんな」
「恐れ入ります。皆がそのお言葉
を聞けば喜びましょう」
「早速これに朱印を押し、寺に奉
納しよう」
「はっ」
「ところで道春は戦のことは気に
ならんのか」
「いえ、気にはなりますが、大御
所様のお顔を拝見して、それだけ
で十分にございます」
「そうか」
「お話いただけるのなら聞きとう
ございます」
「おおそうか。いやな、大変で
あった。一時は自刃も考えたほど
豊臣勢に攻め込まれた。そこをま
た正成に助けられたのじゃ」
「ほう、正成殿が」
「そうじゃ。孫の忠昌をよう補佐
してくれた。正成こそ武勇と知略
に長けたまことの勇将。わしも以
前は目をつけておったが、間違っ
てはおらんかった。もっと早よう
仕官させるべきじゃったな」
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