【長編】戦(イクサ)林羅山篇
秀忠の力み
 道春は食事をして落ち着くと側
で赤子の世話をして幸せそうな亀
を見てつぶやいた。
「その子の名を長吉にしようと思
う。長命の長に吉運の吉じゃ」
「長吉、よい名ですね」
「そうか。よし決めた」
「旦那様、これからどうなるので
すか」
 亀は家康が死んで道春の仕事が
どうなるのか気になっていた。亀
の心配は道春も分かっていた。
「少しは暇になろうが、あまり変
わることはない。上様には信澄が
ついておる。儒学者としてはわし
よりも弟の方が上だ。上様とも気
が合うようだ。じゃが、弟は身分
をわきまえぬところがある。
時々、上様のお話を笑って聴き、
怒らせるそうだ。他の者なら切腹
させられるかもしれんことを平気
でやる。それでもお咎めがないと
ころをみるとよほど信頼されてお
るのだろう。しかし、度が過ぎぬ
とよいが」
「旦那様もそんな、切腹させられ
るような危険なお仕事をされてい
たのですか」
「いやいや。大御所様はそんなこ
とはされぬ。上様は亡き大御所様
の跡を継ぐため力んでおられるの
だ。弟からの知らせでは大御所様
が亡くなったすぐに崇伝殿と天海
殿が大御所様の神号のことで言い
争いをしたり、松平忠輝殿が改易
されたりしたそうだ」
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