【長編】戦(イクサ)林羅山篇
丈山の悩み
 道春に促されて座敷に通された
丈山は座ると深刻な表情を浮かべ
た。
「わしはこれまでの自分の人生を
振り返り、何が良かったのか、何
が間違っていたのか、それを禅か
ら見出そうとした。しかし分から
んのだ。武士は今まで何をしてき
たのか。ただの人殺しだったの
か。この世にいてはいけなかった
のか。大御所様に誠心誠意尽くし
てきたことは間違いだったという
のか。道春殿、そなたの学んでい
る儒学にはその答えがあるのか」
「それにお答えするのは私ではな
く惺窩先生のほうがよろしいで
しょう。どうです会いに行きませ
んか」
「それはもう。しかしお会いでき
るのでしょうか」
「もちろん。早速、行きましょ
う」
「えぇ。今からですか」
「早いほうがよろしい」
 道春はすぐに立ち、出かける仕
度をした。丈山も立ち上がり道春
を待って藤原惺窩の邸宅に向かっ
た。
 惺窩は多くの弟子に指示をあた
え、慌ただしくしていたが、道春
の姿が見えると笑顔で迎えた。
「羅山、こっちに戻っておったの
か」
「先生、ご無沙汰をしておりまし
た。今日は友を連れて参りまし
た。どうか友の悩みを聞いてやっ
てください」
「石川丈山と申します。惺窩先生
にお目にかかれて光栄にございま
す」
「藤原惺窩です。ようお越しくだ
さいました。あわただしゅうして
おりますが、遠慮せず上がってく
ださい。それはそうと羅山、しば
らくこっちにおるのなら弟子の相
手をしてくれ。わしだけではもう
限界じゃ。歳のせいか疲れた」
「はい。分かりました」
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