【長編】戦(イクサ)林羅山篇
後水尾天皇の抵抗
 京の別の場所では秀忠の娘、和
子を後水尾天皇に入内させる準備
が着々と進んでいた。
 秀忠にせかされるように京都所
司代、板倉勝重と武家伝奏、広橋
兼勝の話し合いがおこなわれ、翌
年に入内と決まった。それを民衆
に知らせ、後水尾天皇の決断を迫
るため、盂蘭盆には京で初めての
花火が打ち上げられた。
 後水尾天皇は花火の鳴り響く音
を苦々しく聞き、すでに譲位を決
断していた。
 九月になると小堀遠州を普請奉
行とした和子の居住する御殿の建
設が始まった。しかしそれに徒を
なすかのように後水尾天皇と女
官、四辻与津子の間に皇子が誕生
したことが分かり、秀忠は激怒し
て藤堂高虎を京に送った。
 後水尾天皇は一歩も退かず高虎
に譲位すると宣言した。空には不
気味な彗星が現れていた。

 後水尾天皇は彗星の現れた時に
譲位することは天意に叛くことに
なると悟り、あきらめた。しか
し、さらに秀忠に和子の入内を諦
めさせるため、また四辻与津子と
交わりをもって子を生すことを決
意した。もはやこの程度しか対抗
する手段がないほど徳川家の権力
は強大になっていた。
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