【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天皇の行幸
 天皇は和子を受け入れ愛しては
いたが、秀忠を恨む気持ちが消え
たわけではなかった。
 二条城への行幸は秀忠に屈服す
るような暗い気分にさせた。それ
を察した和子は密かに秀忠のもと
に手紙を送り、天皇の面目が保た
れるように訴えた。そこで秀忠は
征夷大将軍である家光が御所まで
天皇を迎えに行くように計らっ
た。これでは天皇も受けざるおえ
ず、和子と三歳になった興子を
伴った行幸は、三千数百人にも及
ぶ諸大名の警護の中、無事に行わ
れた。
 秀忠は和子の姿が見えると父親
の顔になり、天皇には気にもとめ
ず、和子に駆け寄った。
「和子、達者であったか。おお、
興子姫も大きくなられましたな。
それに和子、また子を身ごもった
そうじゃな。でかしたぞ」
「父上もお元気そうで、母上はど
うなさっていますか」
「元気じゃ、元気じゃ。お江与も
会いたがっておったが、子が産ま
れたら会いに来させようと思うて
おる」
「そうですか。それより帝にご挨
拶を」
「おお、そうであったな」
 秀忠は天皇に型通りの挨拶をし
て、気まずくなる前にすぐ離れ
た。
 二条城で行われたご御宴は四日
間に及び、その間、道春は二条城
と淀城を行き来して雑務をこなし
た。
 そんな中、悲しい知らせが届い
た。
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