【長編】戦(イクサ)林羅山篇
保科正之
 江戸の町は相次ぐ火事に見舞わ
れ、混乱した年の幕開けとなっ
た。
 家光にとって、もっとも信頼で
きる正勝の死は、肉親を失う以上
の大きな痛手だった。
 正勝には男子、正則がいたが十
一歳とまだ幼い。しかし家光は正
勝の忠義に報いるため春日局の
兄、斉藤利宗を正則の後見人とし
て相模、小田原の八万五千石を相
続することを許した。
 春日局は家光の孤独と落胆した
様子を見て、その支えとなるだろ
う保科正之と引き合わせることに
した。
 正之は秀忠が密かに心を寄せた
侍女の静に産ませた子で、信濃、
高遠藩の藩主、保科正光の子とし
て養育されていた。死を悟った秀
忠とは会っていたが、家光には隠
されていた。
 家光は義母弟がいることを知る
とすぐに会いに行った。
 七歳下の正之は家光を主君とし
て迎え、家光が義母兄だと告げら
れてもその態度は変わらなかっ
た。父の秀忠を恨むこともなく、
まっすぐな性格に育っていたこと
に家光はほっとし、すぐに意気投
合した。
 家光は強い味方を得たことで気
力を回復し、難題山積の政務に取
り組んだ。
< 205 / 259 >

この作品をシェア

pagetop