【長編】戦(イクサ)林羅山篇
譜代扱い
 道春は自害した忠長の旧邸の中
でも大きな屋敷を家光から与えら
れ、私塾の先聖殿近くに移築して
塾生たちの寮とした。
 六月になって家光が京に向かう
のに道春も同行した。
 京、二条城に入った家光は朝廷
との関係改善を願い、公家、諸大
名らを招待して盛大な宴を催し
た。道春はその様子を「寛永甲戌
御入洛記」にまとめた。そして京
都所司代、板倉重宗に寄せられた
訴訟の協議にも加わるなど多忙を
極めた。
 一通りの行事を終えて大坂城に
入った家光のもとに江戸城、西の
丸が火事になり全焼したという知
らせが入った。西の丸は家光自身
もそこで過ごし、亡き秀忠も住ま
いしていた思いの強い場所。過失
による出火という知らせだった
が、キリシタンなどの不穏な動き
を警戒して急きょ、江戸に戻るこ
とになった。この時、かねてから
決まっていた譜代大名の妻子を江
戸に住まわせる幕命を発した。こ
れは道春の家族も対象になり、譜
代扱いされるようになっていた。
 道春は家族と一緒に江戸に向か
うことを決め、家光が江戸に向
かった後も京に留まり、引越しの
準備をした。この間、道春と東舟
は藤原惺窩の門下で四天王と呼ば
れていたそのひとり、堀杏庵の邸
宅で行われる詩歌会に呼ばれ、那
波活所、松永貞徳、安楽庵策伝ら
が居並ぶ中、木下長嘯子とも久し
ぶりに会った。
< 206 / 259 >

この作品をシェア

pagetop