【長編】戦(イクサ)林羅山篇
延平答問
「はい。ですからそう易々とは大
御所様の手にはかかりますまい」
「しかしそのために多くの犠牲が
出る。そのことも気にかけなけれ
ば将たりえない」
「はい。それは私も身にしみてお
ります。だからこそ今度の戦で全
てを終わらせたいと願っているの
です。これで武士の時代は終わり
ましょう」
「そうなればよいが、おお、それ
で朝鮮との和平を大義名分にする
よう進言したのか」
「そうです。これでもう異国を攻
めるようなことは二度とさせませ
ん」
「それはすばらしいことだ。そう
だお前に渡したい物がある」
 惺窩はそう言って雑然と積まれ
た書物の中から延平答問(えんぺ
いとうもん)を取り出した。
「この延平答問には朱子の奥義の
全てが書かれている。私はこれか
ら紀伊の浅野幸長様のところへ行
くからしばらく会えんかもしれ
ん。だからこれを私の代わりに置
いて行く」
 そう言って羅山に延平答問を手
渡した。
「ありがとうございます。大切に
お預かりし、写本させていただき
ます。先生、どうぞお体を大切
に」
 二人はしばらく談笑して別れ
た。
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