【長編】戦(イクサ)林羅山篇
ぶしつけな質問
 道春は義成を通じて三使に質問
書を出した。その質問には「朝鮮
の始祖である檀君が国を統治した
のは千年余りといわれるがそんな
に長生きだったのか。檀君の後を
継承したといわれる子孫について
は明の古い書物に記されている
が、檀君については何も記されて
いないのはなぜか。そのような歴
史は作り話ではないのか。それか
ら明が殷といわれた時代に周を建
国した武王との争いに敗れ、殷の
箕子が朝鮮に逃れ王となったと伝
わるが、箕子が朝鮮に来た時、そ
の従者は五千人いた。殷の人、五
千人について明の古い書物には記
されていない。これを書いた書物
があるのか教えてもらいたい」と
いった朝鮮の歴史に疑問を投げか
けるものや儒学に関することを問
いただした。これに対して三使は
自分たちの歴史に言いがかりをつ
ける非礼な道春に憤慨しながらも
答えられることには返答をした。
 次に道春は随員の文弘績に朝鮮
の官位、衣冠など国の組織につい
て、また食事など生活について問
いただした後「朝鮮では争いがあ
り、前の国王、光海君が敗れ今の
国王、仁祖になったが、光海君は
今どうされているのか」と聞い
た。これに対して文弘績は王室の
ことは恐れ多いとして語るのを拒
んだ。
 光海君は秀忠の代には国王だっ
たが家光が征夷大将軍になる間に
今の国王、仁祖に追いやられてい
た。
 東舟も他の朝鮮人たちに筆談で
色々聞いてまわった。
 そうした道春と東舟のぶしつけ
な質問で通信使が不快になってい
ることを聞いた家光は多くの家臣
や通信使のいる中、道春を呼ん
だ。
「道春、そなたと東舟の質問はあ
まり役に立つものがない。私が知
りたいのは朝鮮での治世の方法や
仁義忠信といった心得について
だ。通信使の方々に教えを乞う気
持ちを忘れてはならんぞ。よい
な」
「ははっ」
 これで通信使の不快は和らぎ、
家光への信頼は増した。しばらく
して日本と朝鮮の絆を深めること
を約束して通信使は朝鮮へ戻って
いった。
< 218 / 259 >

この作品をシェア

pagetop