【長編】戦(イクサ)林羅山篇
朝鮮の狙い
 家光は道春と東舟を呼んで、朝
鮮の内情を聞いた。
「こたびの通信使は三使よりも従
者である訳官の洪喜男のほうが位
が上にございました。以前はこの
ように身分を違えることはありま
せんでした。これはやはり朝鮮で
政変があったと見るべきでしょ
う。私と東舟の非礼な問いにも怒
りはしますが、それ以上、事を荒
立てる様子はございませんでし
た。いちいち上様におもねるよう
な態度は何かを欲しがっているよ
うに感じました。こたびの渡来は
上様に頼み事があったのではない
でしょうか」
「明と金の争いの狭間でどちらに
つくにしても国情は荒れる。いざ
という時のためにこの国を後ろ盾
にするつもりだろうか」
「上様のご明察とおりと思われま
す」
「しかし今のこの国では朝鮮を手
助けすることは出来まい。どうす
ればよいか」
「そこなのです。本当に困ってい
れば、こたびは是が非でも上様に
頼ったでしょう。それをしなかっ
たということはまだ余裕があるの
かもしれません」
「もしそうならこちらも今のうち
に備えをしておかねばならんな」
「はい」
 家光は食糧の安定を図り、相
模、箱根に関所を設けて人の移動
を制限し、ポルトガル人を肥前、
長崎に造った出島に住まわせるよ
うに命じていたのを急がせて、国
内の管理体制を整えさせた。
< 219 / 259 >

この作品をシェア

pagetop