【長編】戦(イクサ)林羅山篇
東舟への想い
 道春は慶長七年(一六〇二年)
に京の町家、林吉勝の屋敷で東舟
と初めて会った時のことを思い出
していた。
「兄上は藤原惺窩先生をはじめ公
家の方々からも指南を受け、多く
の兵や領民を指揮し学問を実践さ
れたと聞いております。その成果
は目覚しく、領地を復興させるこ
とも叶ったとか。そのことを私は
うらやましく思っています。私の
家は貧しく、建仁寺で学問を学び
ました。最近知ったのですが稲葉
様のご援助があったようです。し
かし、それでも思うようには多く
を学ぶことができず、鬱々とした
日々を暮らしておりました。この
ようなことを話しますのは兄上に
私の人生をお譲りするにあたり、
私のこれまでを知っていておいて
ほしいと思ったからです。これが
町人という者です。これから不自
由に思われることがあるかもしれ
ませんが、耐え忍び、町人の心持
で信勝を生かしていただければ幸
いです」
 道春はまっすぐな目ではっきり
とものを言う若き東舟に苦笑い
し、涙が溢れてくるのもこらえず
泣いた。
 東舟の葬儀は儒教の礼により執
り行われ、遺骸は私塾の先聖殿、
北隅に葬られた。そして東舟の跡
を永甫が継ぎ、道春の三男、春斎
と一緒に道春の補佐をして評定に
も加わるようになった。
< 225 / 259 >

この作品をシェア

pagetop