【長編】戦(イクサ)林羅山篇
春徳の縁談
 道春は立派に務めをこなした春
徳に所帯を持たせようと考え、以
前から親交のあった水戸の徳川光
圀に仕えいた伊藤友玄の娘との縁
談を春徳に話した。
「父上、私はまだまだ未熟者にご
ざいます。妻をめとるなどまだ早
うございます」
「なにを申す。お前はもう二十
七、遅いぐらいじゃ」
「年は関係ありません。人として
どうかということです」
「お前はもう立派に務めをこなし
ておる。妻をめとればさらに力を
発揮できるというものじゃ」
 納得しない春徳に亀が口を挟ん
だ。
「春徳、お相手はご立派な家柄の
娘さんです。こんな良いお話はま
たとありませんよ。人との出会い
というのは大切にしなければなり
ません。私も良い出会いをしたか
らお前という立派な子宝に恵まれ
たのです。お前が所帯を持ってく
れたら、父も母も思い残すことは
ありません。お受けするか断るか
は会ってみてからでもよいのでは
ないですか」
 会えば断れなくなることは春徳
には分かっていたが渋々承諾し
た。
 それから間もなく春徳と友玄の
娘との婚礼が行われた。
 八月には春斎に次女、七が産ま
れ、二重の喜びととなった。
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