【長編】戦(イクサ)林羅山篇
月の絵柄
 羅山はハビアンから手渡された
凸面鏡とプリズムを物珍しく見
て、使い方も教わり、プリズムが
作り出す虹色の光に側で見ていた
信澄と松永貞徳が驚いた。しかし
これを羅山は反論のきっかけにし
た。
「このような物で民を幻惑してい
るのですか」
「いえ、これは幻惑ではなく事実
を見せているのです」
「ではお尋ねします。月には絵柄
がありましょう。ウサギが餅をつ
いているような絵柄に見えます。
それがいつ見ても同じなのはどう
してですか。月が球体なら絵柄の
位置がずれることも別の絵柄が見
えることもあるでしょう」
「……」
「地が平らだからこそ絵柄がいつ
見ても同じなのです。それはこれ
で見てもはっきり分かるはず」
 そう言って羅山は手にした凸面
鏡とプリズムをハビアンにつき返
した。
 ハビアンは地球や月が自転して
いることは知らず、コペルニクス
やガリレオの太陽を中心とする地
動説はキリシタンの中でも異端と
されていたので、反論に使えな
かった。
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