【長編】戦(イクサ)林羅山篇
宗教の天下統一
 このまま論争をしても信仰とは
関係ない話になりキリシタンへの
理解は深まらないと感じたハビア
ンは自分の書いた書物、妙貞問答
三巻を取り出し羅山に読むように
促した。
 しばらく目を通していた羅山は
本の感想を話し始めた。
「この地で永い間信仰されてきた
宗教は他の宗教も認め、そのため
キリシタンも容易に受け入れてき
た。だがこの本にはそれらの宗教
をいっさい認めず、キリシタンの
みが真に信ずるべき唯一の宗教と
言わんばかり、まるで宗教の天下
統一を目論んでおられるようです
ね。ハビアン殿にお尋ねするが、
キリシタンは『隣人を愛せよ』と
説いているそうだが、他の宗教は
なぜ愛せない、認めないのです
か」
「それはキリシタンが他の宗教か
ら弾圧されてきた歴史によるもの
です。ゼウス様は『争う相手を愛
せ』とは申してはおりません。人
は学んで成長するもの、昔から伝
えられてきたこと、信仰が全て正
しいとは限りません。それを正し
て人を導く者が必要ではありませ
んか。キリシタンが弾圧されても
この地にまで広まっていること
は、その役割があることをゼウス
様が示しているのです。羅山殿が
言われるように宗教の天下統一は
自然の流れかもしれません。この
地がまさにそれを体現してきたで
はありませんか。織田信長公に始
まり、豊臣秀吉公そして今の徳川
家康様へと天下統一は民衆を安泰
にするものです。他の宗教に統一
を阻むものがあれば、それは廃れ
るのもしかたのないことです」
< 29 / 259 >

この作品をシェア

pagetop