【長編】戦(イクサ)林羅山篇
惺窩との再会
 豊臣秀吉の朝鮮出兵以来、冷え
きった日本と朝鮮の関係がようや
く打ち解けようとしていた。しか
し、これは同時に豊臣家に対する
責任追求の始まりでもあった。
 朝鮮使節団が江戸から帰る途
中、駿河に立ち寄った。それを
知った道春は藤原惺窩と再会し、
丁好寛に面会した。
 会話は全て筆談で行われ、主に
朱子学についての質問をやり取り
した。しかしこれは口実で、道春
の目的は惺窩と今後のことを話し
合うためだった。
「羅山、しばらく見ぬうちに儒者
らしくなったな」
 儒者は坊主頭にしないのだが道
春が坊主頭になっていたので惺窩
は皮肉をこめて言った。
「お恥ずかしい限りです。大御所
様から道春という号も賜りまし
た」
「そうらしいな。まあよい。幕府
に入れたのだから」
「その幕府なのですが、秀忠様が
将軍になられて表向きは平穏に見
えますが、その実権はまだ大御所
様にあり、幕府の本当の姿がまだ
見えないのです」
「そうじゃな。このままでは太閤
と秀次の二の舞になるかもしれ
ん」
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