【長編】戦（イクサ）林羅山篇

良い知らせ

　道春は駿府文庫に納める書物を
購入するため長崎に行って京に
帰って来ると、良い知らせが二つ
入った。
　一つは、稲葉正成が幕府に仕官
できたというのだ。もともと家康
には高く評価されていたのだが、
主君、小早川秀秋の乱心で逃亡し
たという印象が強く、秀忠には良
く思われていなかった。しかし福
の竹千代への命がけの献身と道春
の登場により、秀秋に対する偏見
が薄れ、逸材をこのまま埋もれさ
せておくのは惜しいという判断に
変わり、しばらく働きぶりを見た
うえで、美濃に一万石の領地が与
えられた。
　もう一つは、道春が江戸から戻
る時に駿府と京に宅地と邸宅の建
築費が与えられていたのだが、そ
の邸宅ができたという知らせだっ
た。これで藤原惺窩や兄の木下長
嘯子を呼んで、正成や福らと連絡
をとりあったり、弟子を増やして
幕府に送り込む人材を育成するこ
ともできるようになった。
　早速、道春は駿府に長崎で購入
した書物を持っていくと駿府城が
火災にあったと知らされた。幸い
家康は無事で駿府文庫も火災から
免れた。