【長編】戦(イクサ)林羅山篇
道春の婚礼
 駿府城が再建されるまでしばら
くは京の邸宅にいることになり、
書物を駿府文庫に納めると京に引
き返した。
 この間、道春はしばしば家康に
呼ばれて出向き、兵法や漢方薬の
書物を読んで話しをした。
「ところで道春。そなたはいくつ
になる」
「はっ。二十六になります」
「まだ一人身なのであろう」
「はい」
「そろそろ良い妻をめとって身を
固めてはどうじゃ」
「そこまでお気にかけていただけ
るとは、恐れ入ります。しかし、
こればかりは縁のものですか
ら…」
「そうじゃな。まあよくよく探し
てみるが良いぞ。子や孫はかわい
いものじゃ」
「ははっ」
 道春はどこかで生き延びている
秀秋の時に側室にした妻や子らの
ことがいつか明るみになるのでは
ないかと心配になった。そこです
ぐに娘を探し、荒川宗意の娘、亀
と出会った。
 亀はまだ十一歳の少女だったが
働き者で、もの静かな町娘だっ
た。
 道春が挨拶をすると最初は警戒
していたが、毎日、挨拶している
と亀も挨拶を返すようになった。
 父親の宗意は道春のことをどこ
かで聞き知っていてすぐに打ち解
けた。
 しばらくして道春が思い切って
宗意に亀を妻にめとりたいと申し
出ると、宗意は一瞬、ためらった
が、この頃にはすでに亀が道春の
弟子たちとも顔なじみで家族のよ
うになっていたので、快く承諾し
た。
 婚礼は年の明けた慶長十四年
(一六〇九年)の春に行われた。
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