【長編】戦(イクサ)林羅山篇
秀頼対面
 二条城に現れた秀頼は十九歳の
凛々しい若者となり、家康は複雑
な思いだった。
「秀頼様、やっとお会いできまし
たな」
「大御所様、その様をつけるのは
おやめください。大御所様にはご
健康そうでなりよりです」
「そ、そうか。秀頼殿も立派にな
られた。ところで千はどうじゃ。
元気にしておるか」
「はい。よき妻をめとり、秀頼は
幸せ者にございます」
「おお、そうか。これからも仲よ
うの。何か困ったことがあればな
んなりと遠慮せず申されよ」
「ははっ。ありがたきお言葉。こ
れからも父上様を見習い、仲むつ
まじく暮らしていきたいと思いま
す」
「父上とな。それは…」
「上様にございます」
「おお、そうかそうか。良い心が
けじゃ。な、これも何かの縁
じゃ。以前、太閤様とわしは刃を
交えたこともあったが、天下統一
という夢で結ばれてそれを果たす
ことができた。今度は秀頼殿と秀
忠が天下泰平という夢で結ばれて
末永く続くように精進してほしい
と思うぞ」
「ははっ。この秀頼、若輩者では
ございますが、上様の手足とな
り、犬馬の労も惜しみません」
「よくぞ申された。これでわしも
憂いを残すことなく余生を過ごせ
る。このとおり礼を言う」
 家康は深々と頭を下げた。
「大御所様、どうか末永くご健勝
で、この秀頼を見守ってくださ
い」
 秀頼はそれよりも深く平伏し
た。
 こうして家康と秀頼の対面は何
事もなく終わり、豊臣恩顧の諸大
名もほっと一安心した。
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