【長編】戦(イクサ)林羅山篇
豊臣恩顧の諸大名の死
 二条城での秀頼との対面が何事
もなく終わって一番ほっとしてい
たのは家康だった。
 これで安心して秀忠、竹千代に
征夷大将軍を継承させることがで
き、自分は身を引き、余生をすご
せると信じていた。
(この乱世をよく生き抜いたもの
だ)
 そう思わずにはいられなかっ
た。ところがそれを一変させる事
態が起こった。
 しばらくして家康のもとに秀頼
と対面した時に警護していた加藤
清正と浅野幸長が亡くなったとの
知らせが入り、その後も島津義
久、堀尾吉晴など豊臣恩顧の諸大
名の死の知らせが続いた。
 この偶然続いたとは思えない死
に、諸大名の誰もが真っ先に疑っ
たのは家康だった。以前、小早川
秀秋が狂い死んだのは家康の毒殺
という噂が一時、広まったことを
誰もが思い出した。
 道春も相次ぐ豊臣恩顧の諸大名
の死は家康が関係していると思っ
ていた。ところが家康が異常なほ
ど狼狽し、それが演技には見えな
くなり、もしやと思い始めた。
「道春、わしではない。こたびの
ことはわしは何もしておらん。秀
忠にも何も命じてなどおらん。あ
れにも問いただしたが、けっして
はかりごとなど企ててはおらん。
な、信じてくれ。これは天罰か。
そなたを殺そうとした報いか」
「大御所様、落ち着いてくださ
い。正直を申せば、私も大御所様
を疑っておりました。でも今は違
います。これは淀殿の策略です」
「淀殿…」
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