【長編】戦(イクサ)林羅山篇
強気の書簡
 道春の心中に石田三成の姿がよ
ぎった。今思えば三成は家康がオ
ランダの船、リーフデ号の航海士
として乗船していたイギリス人、
ウイリアム・アダムスを軍事顧問
としたことから将来、諸外国に日
本が侵略されかねないと思い、戦
をすることを決意した。そのアダ
ムズは今、三浦按針と名乗り、平
戸にオランダ商館を開設してい
た。
(諸外国の脅威が去ったとはいえ
ないが、ポルトガルが抗議してい
る反面、国交の正常化と貿易の再
開を願っているということは、ま
ずは争わずこの国の金銀、産物を
得ようとする企みか。それはこの
国とて同じこと。前々からポルト
ガルが扱っている生糸を大御所様
はほしがっておられた。そもそも
この騒動の発端はポルトガルの船
員が日本人を殺したことにある。
こちらには非がないことを諭し、
ポルトガル人にどの程度の思慮分
別があるか探る書簡がいいかもし
れない)
 道春はポルトガルが騒動の発端
となり、その後の対応のまずさか
らゼウス号が沈むことになったこ
とを責め、賠償金と長崎奉行の解
任を拒否した。しかし国交の正常
化と貿易の再開は許すといった強
気の書簡を起草した。
 これにより騒動は治まり、貿易
が再開された。そして道春には外
交文書の起草の仕事が度々、任さ
れるようになった。
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