【長編】戦(イクサ)林羅山篇
重大な仕事
 道春は淀の動向も気になった
が、それよりも重大な仕事を任さ
れていた。
 この頃、日本は明や朝鮮との国
交が先の朝鮮出兵の影響で思わし
くなく必要な物資が手に入りにく
くなったこともあり、貿易の相手
国を求めて船出していた。そうし
た中、慶長十四年(一六〇九年)
に東南アジアのポルトガルが拠点
にしていた港で日本人がポルトガ
ルの船員に殺されるという騒動が
あり、その報復として長崎に寄航
しようとしていたポルトガル船、
マードレ・デ・デウス号の船長、
アンドレ・ぺッソアを詰問しよう
と待ち構えていた。しかしそれを
事前に知ったペッソアは長崎から
引き返そうとした。そこで肥前の
日野江城主、有馬晴信が船を出し
て襲撃すると火薬の積んであった
デウス号は爆発炎上して沈没し乗
組員三百人が水死した。
 このことを抗議し賠償金と長崎
奉行の解任、国交の正常化と貿易
の再開を要求してポルトガル大
使、ドン・ヌーノ・ソトマヨール
が駿府にやって来た。
 道春はこの抗議に対する返答の
書簡を起草することになった。返
答によっては日本がポルトガルの
属国、最悪の場合には植民地にな
りかねない。
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