【長編】戦(イクサ)林羅山篇
道春、片桐且元と対面
 駿府城でいつものように吾妻鏡
を用意して待っている道春。そこ
に家康とその後にもう一人が入っ
てきた。
 道春はすぐに平伏したので家康
の他に誰かの足元しか見えなかっ
た。
「道春、面を上げよ」
 道春が顔を上げると家康の前に
片桐且元が座っていた。
「道春、片桐且元殿じゃ。先の方
広寺の一件で天海、崇伝と供にお
うておろう」
「はい。その節はお顔を拝見する
だけでお言葉を交わすことはかな
いませんでした。道春と申しま
す。以後お見知りおきをよろしく
お願いいたします」
「こちらこそ、再びお会いできて
光栄にござる。あの時は天海殿、
崇伝殿に詰問されて道春殿のこと
は気がつかなんだ」
「お恐れながら片桐様はあの賤ヶ
岳の七本槍のお一人の片桐様です
か」
「いかにもそうでござるが、それ
は昔のこと。今は見てのとおりの
老いぼれにござる」
「片桐殿、そなたが老いぼれなら
わしはどうなる」
 家康がいたずらっぽく聞いた。
「これは失言。誠に申し訳ござい
ません」
「よいよい。これから老いぼれ同
士、手を携えて天下泰平のため、
最後のご奉公をしようぞ」
「ははっ」
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