【長編】戦(イクサ)林羅山篇
強い女
「淀殿は死なないだろう。それが
浪人たちを戦わせる闘志の支えに
なっておるからな。大御所様と淀
殿の思惑は違うが目指すところは
一致しているように思う。これか
らは力だけの武士の世は終わり、
知恵を働かせる策士の世になるの
かもしれん」
「では私がこたび手柄をたてたこ
とはまずかったのでは」
「それはもう過ぎたこと。これか
らはあまり力を見せつけぬこと
じゃ」
「はっ」
「もうそろそろ戻らねば、正成
殿、命を粗末にせず、目立たずに
な」
「道春殿もお気をつけて」
「おう、そうじゃ忘れるところ
じゃった。兄の知らせでな、お福
殿が奥の総取り締まり役になって
おるそうじゃ」
「それは困りました。まだあれも
目立たぬほうがよいのですが」
「成り行きじゃ。しかたあるま
い。どこの女も強うなってかなわ
ん」
「そういえば道春殿も妻をめとり
子ができたとか」
「正成殿は相変わらず地獄耳です
ね」
「恐れ入ります」
 外で鬨の声と供に銃声が鳴り響
いた。その音に道春がすかさず、
「催促鉄砲じゃ。さあ戻ろう」
「私も出馬いたします。目立たぬ
ように」
「ではな」
 二人は名残惜しむように会釈し
て別れた。
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