大剣のエーテル

彼は、全てを見抜いているらしい。

それもそのはずだ。

彼とは、団長とその右腕として5年、エーテルを続けてきたのだ。

俺が体調を押してでも出撃することを、彼は止めたりしない。


「お前のことだ。また、訳の分からない作戦を思いついているんだろ。勝機はあるのか?」


イヴァンが、俺を伺うようにしてそう尋ねた。

俺は、頭の中で思考を巡らせながら答える。


「作戦、ね。まぁ、準備していることはなくもないけど……」


(……………け、ど……)


言葉を途切らせた俺に、イヴァンは眉を寄せた。

数秒後、俺は小さく彼に謝る。


「ごめん。あのさ、考えてた作戦、さっき全部頭から飛んでっちゃったんだよね。」


「は?」


「ちょっと、頭真っ白になっちゃって。」


イヴァンが、険しい顔をして口を開いた。


「まさか、カイにやられた時に記憶が飛んだのか?」


「ううん、違う違う。強いて言えばノアちゃんにやられた。」


「はぁ?」


(…まぁ、首にキスされて作戦が消え失せる俺もどうかと思うけど。)


彼女と交わしたキスの感触が蘇る。

それだけで落ち着かなくなる俺は、まだまだ人間が出来てないらしい。

俺は、小さく息を吐いて目を閉じた。


(…ノアちゃんのためにも、負けるわけにはいかない。)


「ねぇ、イヴァン。」


「あ?」


「団員みんなを呼んでくれない?今から、動きを全部話すから。」


「!」


イヴァンの顔つきが変わった。

俺を見つめる琥珀の瞳は、覚悟を決めた“エーテル”の顔だ。


「…了解。」


小さく答えた彼は、コツコツと廊下を歩いて行った。

…ここから、最後の決戦の幕が上がったのだ。


《ランバートside*終》

第4章*終
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