大剣のエーテル
与えられた制限時間は、物語の1ページをめくるよりも短い時間だった。
だが、私には迷う理由なんてない。
ぎゅっ!
勢いよく彼の手を取ると、ランバートは
にっ!と笑って私の手を握り返した。
イヴァンさんも、タバコの煙をくらりと吹かしながらわずかに口角を上げる。
(…信じ…られない。夢じゃないよね?)
繋がった手の温かさが、じんわりと私に伝わってきた。
その熱が、今が現実であることを告げている。
…ずっと、心の奥底で思っていた。
騎士が姫を助ける、私の大好きなあの本のように
私をこの町から出してくれる人が来てくれるんじゃないかって。
「ノアちゃん、どう?“三食昼寝付きの世界旅行券”。…俺からの誕生日プレゼントのつもりだったんだけど。」
ランバートが、いたずらっ子のような笑みを浮かべてそう言った。
私は小さく目を見開いて、そして彼に笑い返す。
「…初めての誕生日プレゼントにこれをもらっちゃったら、もう一生何もいらない…!」
ランバートは、私の言葉に優しく微笑むとそのまま私の手を引いた。
月明かりに照らされて、3人の影が引き寄せられるように伸びる。
「よし、帰ろっか!今夜中に荷造りしないとね!持って行きたい本を好きなだけ詰めるといいよ。重いものは全部イヴァンに持って貰えばいいんだから。」
「…おい。」
頭上での2人のやり取りに自然と笑みがこぼれる。
“これからの君の人生には、幸せなことしか起こらないから”
ランバートの言葉が、頭の中で優しく響いた。
…私は、ずっと世界から排除された存在だった。
“悪魔の子”と呼ばれ、人々から軽蔑されて生きてきた。
だけど、今日。
16歳を迎えた日。
私は、やっと人生のスタートラインに立てた。
こうして、私と“エーテル”達の旅物語の表紙がめくられたのです。
第1章*終