大剣のエーテル

与えられた制限時間は、物語の1ページをめくるよりも短い時間だった。

だが、私には迷う理由なんてない。


ぎゅっ!


勢いよく彼の手を取ると、ランバートは
にっ!と笑って私の手を握り返した。

イヴァンさんも、タバコの煙をくらりと吹かしながらわずかに口角を上げる。


(…信じ…られない。夢じゃないよね?)


繋がった手の温かさが、じんわりと私に伝わってきた。

その熱が、今が現実であることを告げている。

…ずっと、心の奥底で思っていた。

騎士が姫を助ける、私の大好きなあの本のように

私をこの町から出してくれる人が来てくれるんじゃないかって。


「ノアちゃん、どう?“三食昼寝付きの世界旅行券”。…俺からの誕生日プレゼントのつもりだったんだけど。」


ランバートが、いたずらっ子のような笑みを浮かべてそう言った。

私は小さく目を見開いて、そして彼に笑い返す。


「…初めての誕生日プレゼントにこれをもらっちゃったら、もう一生何もいらない…!」


ランバートは、私の言葉に優しく微笑むとそのまま私の手を引いた。

月明かりに照らされて、3人の影が引き寄せられるように伸びる。


「よし、帰ろっか!今夜中に荷造りしないとね!持って行きたい本を好きなだけ詰めるといいよ。重いものは全部イヴァンに持って貰えばいいんだから。」


「…おい。」


頭上での2人のやり取りに自然と笑みがこぼれる。


“これからの君の人生には、幸せなことしか起こらないから”


ランバートの言葉が、頭の中で優しく響いた。

…私は、ずっと世界から排除された存在だった。

“悪魔の子”と呼ばれ、人々から軽蔑されて生きてきた。

だけど、今日。

16歳を迎えた日。

私は、やっと人生のスタートラインに立てた。


こうして、私と“エーテル”達の旅物語の表紙がめくられたのです。


第1章*終
< 64 / 369 >

この作品をシェア

pagetop