短編集
恋の始まり

「なぁ」
「はい」
「そろそろ俺ら付き合えへん?」

彼の言葉に持っていた携帯を落としたのは他でもないあたし。

「はい?」
「一緒に遊びに行くし飯も3回食いに行ったし付き合ってもええんちゃん?」
「いやいや、そんな条件で付き合う人いませんから」

いやいや、と手を左右に振って抗議するけど、彼は不服そうで、ずっと「なんで?」を繰り返してる。

「付き合うって、どういうことか知ってます?」
「知ってるわ!でも俺が誘った飯3回も行くってことは俺のこと好きなんじゃないの?」

なんなのその解釈…と思いながら、びっくりした心の平常を取り戻しながら、彼にわかるよう説明する。

「千晴くんと遊びに行ったのは3回。それは純さんカップル含めての3回です」
「泊まりも行ったな」
「ありましたね。で、2人でご飯に行ったのは今日で3回目」
「俺が全部誘ってな」
「そうです。ありがとうございます」
「ほらな?」
「何が“ほらな?”なんですか?どっかにそんなキッカケありました?!」

焦るあたしに「それで十分やん」と軽く言いきった。

「3回遊んだ。3回飯行った。俺が呼んだら来る。十分やろ」
「あたしの気持ちは…?」
「俺が好きやから一緒に飯行くんじゃないの?」

びっくりするほどの単純思考にどう説明すればいいのか必死に考える。
下手に説明して逆上されたら怖い。
そういう人じゃないって知ってるけど、人って見た目じゃわかんないし。

「え、もしかして俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです。でも恋愛感情として好きかっていうと、」
「まだ好きじゃない?」
「まだ……はい」

“これから好きになる”みたいな言い方に返事しづらかったけど、好きにならないと言い切ることでもないような気がした。

なんだんだで一緒にいて楽だし楽しい。
絶対笑ってるし次のお誘いをもらっても“あたしでよければ是非”みたいな感覚。
それが好きに繋がるかどうかっていえば、また別の話になるけど、恋愛感情になるかもしれない可能性は十分ある。

「………」
「………」

少しの沈黙の間、自分か彼の言葉に流されてることに気付いた。

なぜかこんな話になったけど、そもそもあたし告白されてないし。
“付き合えへん?”とは言われたけど、彼があたしを恋愛感情で好きなのかどうか聞いてない。

根本的なことを忘れてる。
これがないと話の意味がない。
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