短編集

あたし、この人を好きでいていいのかな?と思った。

もっと上を目指せる俺って自意識過剰にも程がある。
いや、事実なんだけど。

ここまで自意識過剰で、でも見た目は最高で中身は最低な“悪魔”みたいな男いないと思う。

「そんなことしなくてもあたしは最初からモテないよ。バカじゃないの」
「俺にバカって言う女はお前だけだよ。そういう所が好きだけど、多英は何に対しても疎いんだな」

それでいいけど、とあたしを抱きしめた。
胸がキューっとなる。
痛い締め付けじゃなくて気持ちよくて心地いい。

「俺を好きだって言えよ」
「・・・」
「なぁ、多英」
「・・・」
「温士(アツシ)の彼女にしてくださいって言えよ」
「なんであたしが頼まないといけないのよ」

抱きしめられたまま上を向くと笑顔の温士がいた。
いつも見る笑顔。
でもそれは他の女の子といるときには見たことがない。

あたしが気付いてないだけで見せてるのかもしれないけど、この笑顔が人気なのはわかる。
普段の秀才オーラからは想像出来ない可愛い笑顔。

「多英様、僕と付き合ってくださいって言ってくれたらいいよ」
「多英様、僕と付き合ってください」
「マジで言うし!!」
「言ったら付き合うって言ったし」
「マジでバカなんじゃないの?!」

爆笑するあたしに眉間に皺を寄せた温士。
悪魔と呼ばれる彼もあたしの前では素直に表情を見せてくれる。
それだけで嬉しい。

天使…とまでは言えないけど、あたしにとっては悪魔ではない。

「俺、今超モテ期だから嫉妬すんなよ」
「しないよ」
「しろよ」
「しないよ」
「なんでだよ」
「あたしを好きなんでしょ?」
「なんで偉そうなんだよ」
「好きなら浮気しないでしょ?」
「人の話、聞けよ」
「温士」
「なんだよ」
「好きだよ」

・・・彼が顔を真っ赤にするのもあたしの前でだけ。

こんな姿を可愛いと思うあたしも彼にとっては悪魔なのかもしれない。




END.
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