貴方の残酷なほど優しい嘘に
「え?」
と、聞こえてから何も聞こえなくなった。冗談だよって笑えば良かったのに、誠君がなんて答えるのか私の心が知りたがった。
「明日、ゆかさんの仕事が終わってからで構いません、会えますか?」
予想外の返答に私は思わず頷いていた。それを見た妹が『お姉、電話に頷いてどうすんの?』と、言ったので慌てて、大丈夫と言葉にした。
「ありがとうございます。場所は、昨日の喫茶店で大丈夫ですか?お仕事終わる頃に待ってます」
電話を切って暫くア然としていた。
その日、出勤の為に乗った電車の中で誠君の番号を登録しようとして、苗字を知らない事に気がついた。仕方なく『誠君』とだけ名前の欄に入力をして、登録ボタンを押した。電話帳に新しく追加されたその名前を見て、とても悪い事をしているような気がした。でも、心がときめいた。
翌日、会社を出て時計を見ると7時を回っていた。こんな時に限ってギリギリに仕事が入り、残業になってしまったのだ。一応誠君に遅くなるとメールを入れて見ると『待ってます』と、直ぐに返信があって、顔がにやけた。元彼は見ても返信をする人ではなく、いつもメールは自分からの一方通行なものだった。
それにしても、予定より1時間程オーバーしてしまった。メールを入れる隙もなかったけど、彼はまだ待っていてくれているだろうか?携帯電話を開いてみても、連絡は入っていない。履歴から誠君の番号に発信してみた。
「お疲れ様、ゆかさん」
手に持っていたのか、一度もコールする事なく誠君の声に直結した。また顔がにやけた。
「遅くなってごめん、タクシーで行くから5分ぐらいで行けると思う」
わかりました。と誠君が答えたのを聞いてから電話を切り、側に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
喫茶店に入ると、誠君はこの間待ち合わせをした時に私が座っていた席に居た。ジーンズは同じだったが、シャツは黒い長袖だった。コーヒーを前に置き、文庫本に眼を落とす姿は誰がどう見ても16歳には見えなかった。
私が近付くと、気配に気が付いたのか彼は顔を上げた。当たり前だが、そこには以前と変わらない優しい眼があった。
「ほんとにごめんね、こんな時間になる事なんて滅多にないんだけど」
謝りながら向かいの席に腰をおろした。
「全然大丈夫ですよ、こっちこそ、疲れてるのにすみません」
また彼は申し訳なさそうな眼をした。
と、聞こえてから何も聞こえなくなった。冗談だよって笑えば良かったのに、誠君がなんて答えるのか私の心が知りたがった。
「明日、ゆかさんの仕事が終わってからで構いません、会えますか?」
予想外の返答に私は思わず頷いていた。それを見た妹が『お姉、電話に頷いてどうすんの?』と、言ったので慌てて、大丈夫と言葉にした。
「ありがとうございます。場所は、昨日の喫茶店で大丈夫ですか?お仕事終わる頃に待ってます」
電話を切って暫くア然としていた。
その日、出勤の為に乗った電車の中で誠君の番号を登録しようとして、苗字を知らない事に気がついた。仕方なく『誠君』とだけ名前の欄に入力をして、登録ボタンを押した。電話帳に新しく追加されたその名前を見て、とても悪い事をしているような気がした。でも、心がときめいた。
翌日、会社を出て時計を見ると7時を回っていた。こんな時に限ってギリギリに仕事が入り、残業になってしまったのだ。一応誠君に遅くなるとメールを入れて見ると『待ってます』と、直ぐに返信があって、顔がにやけた。元彼は見ても返信をする人ではなく、いつもメールは自分からの一方通行なものだった。
それにしても、予定より1時間程オーバーしてしまった。メールを入れる隙もなかったけど、彼はまだ待っていてくれているだろうか?携帯電話を開いてみても、連絡は入っていない。履歴から誠君の番号に発信してみた。
「お疲れ様、ゆかさん」
手に持っていたのか、一度もコールする事なく誠君の声に直結した。また顔がにやけた。
「遅くなってごめん、タクシーで行くから5分ぐらいで行けると思う」
わかりました。と誠君が答えたのを聞いてから電話を切り、側に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
喫茶店に入ると、誠君はこの間待ち合わせをした時に私が座っていた席に居た。ジーンズは同じだったが、シャツは黒い長袖だった。コーヒーを前に置き、文庫本に眼を落とす姿は誰がどう見ても16歳には見えなかった。
私が近付くと、気配に気が付いたのか彼は顔を上げた。当たり前だが、そこには以前と変わらない優しい眼があった。
「ほんとにごめんね、こんな時間になる事なんて滅多にないんだけど」
謝りながら向かいの席に腰をおろした。
「全然大丈夫ですよ、こっちこそ、疲れてるのにすみません」
また彼は申し訳なさそうな眼をした。