黒猫-KURONEKO-《短編》
本当なら甘い言葉で側に掏りより、
気がゆるんだ隙に掏り替える予定だった。

だが、男の欲望と獣性を、
アタシはまだ全然分かっていなかった。


強い力で揉まれたためにうずくような感触が胸に残り、
舐められたことを思い出すと体の芯が、
不快にぞくりとする。

だけど、
分刻みのスケジュールを遂行する為にも、
今は感情は押さえなければ。



更衣室の小さい窓を開けると、
日に焼け白けたモスグリーンのカーテンが風に揺れた。


その風に乗るように体をくぐらせると、
窓のふちを蹴って、
軽やかに隣のビルの壁にとりついた。

そこは、
警察が強力なライトでビルを照らしながらも、
唯一死角となる非常階段の影の中だった。


まるで蜘蛛のような動きは、
建物の各階を巡回する警備や警察はもちろん、
ビルの外を見回る人々も気付かれなかった。
そして、
同じ影の中にある換気口の蓋を開け、
吸い込まれるように消えていった。
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