紳士的上司は愛を紡ぐ

ドンッ
と重厚的な音がして、反射的に顔を上げる。
彼は腕を壁に押し付け、私が進むことを妨げていた。

「違いますよ。それは。」

図星だったくせに。
一体、何が違うというのか。
反抗的な視線で彼を見上げる。すると彼は、


「私の伝える先にいるのは───

ずっと貴方です。二宮 麻里さん。」


信じ難いことを言い放った。

その言葉と共に、彼はまるで愛しいと思うように目を細め、私を見つめる。

「嘘っ。だって、"10年以上前"って……!」

動揺の余り、それ以上言葉が出ない。

「確かに、私はそう言いました。

じゃあ……
"10年以上前"の話を聞いてくれますか?」

彼の言葉に、私は頷くしかなかった。
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