sugar、sugar、lip
「……知ってるだろ? こんくらいなら……」



こう言って、チラッとわたしを見る。



音楽知識ゼロでリクエストなんかしやがて……



って小さく付け足したのも聞き逃さなかったけど……。



わたしが言い返す間も与えず、米倉くんの白くて長い指が踊り始める。



指の動きに比例して……美しくも緩やかなメロディーがピアノから溢れだしてくる。



「……」



鍵盤の上を弾む指に見とれてしまう……。


わたしには到底真似出来ない芸当。



だからこそ……目が惹かれてる。




……どんな顔して弾いてんだろ?



好奇心で視線をゆっくりと上へ持っていく。



鍵盤を見つめて伏せられた瞳。



まつげ長いなぁ……



男のくせにぃ……。



なんとなく悔しいから、わたしが座ってる近くの鍵盤を人差し指でポンポン押してやる。



綺麗な旋律の中に混ざる低いド、ド、ド、ド……。



「……何?」


「連弾」


「……バカ」



深々とため息をつきながら言われた……。



何よ……、


ちょっとした冗談じゃない。


「まぁ、いいや。……今日は終わり」




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